自転車で日本一周をしている時に見つけた転職

反抗期というと普通は10代の頃だと思う。中学生、高校生あたりでグレたりたばこを吸ったり教師に逆らったり喧嘩したり、よくある反抗期というのはみんな多かれ少なかれあるかと思う。

私は違った。とにかく家が貧しく、反抗期などというものさえも贅沢だったのである。父は速くに亡くし、母は女手ひとつで私と妹を育てた。どんなに家が貧しくても私達には辛い顔ひとつ見せず、気丈に振舞っていた。母が作るご飯がとても美味しかったのを覚えている。

しかしそんな苦労がたたったのか、母は私が大学4年生の時母が病に倒れた。病院で寝ている母のそばで医師が言ったことばは母の寿命がもう少ないということだった。

母が無くなってから私は転職した。とある医療関係の会社だったのだが、とにかく雰囲気が悪い。求人に書かれていた職場とは違っていた。隣や後ろ、見渡せば敵だらけ。人の不幸は蜜の味といったうわさ話も聞こえてきてとにかく居づらかった。

私はやりきれなくなり、ある平日、自転車一台で家を出た。家が嫌になったわけではなく、会社に行きたくなかったので家を出たのだが、とりあえず携帯は上司からの着信で鳴りっぱなしであった。遅い反抗期が来たのかと思った。

気にせず自転車をこいでいると、とある寺社で大工仕事をしている集団が居た。普通の大工とは思ったが、手にしている工具が少し違う。気になって聞いてみるとこの人達は大工の中でもこういった寺社仏閣などを修繕する宮大工という業種の人達らしい。

その人達に今自分が会社を辞めたいと思い、自転車であてども無く走っていることを伝えると、今日の宿も無く無謀だと怒られてしまった。しかしその人達の厚意によって、泊まっているところに一泊させてもらえることになった。

話を詳しく聞くと、とてもその仕事が魅力的に思えてくる。思い切ってその棟梁に私を雇ってほしいと申し出ると、快く快諾してくれた。私は会社に辞める意向を伝え、すぐに働き始めた。

慣れない仕事ではあるが、やりがいをもって働くことができている。叱られつつ汗を流しながら今は働いている。